新しい体験

  岐阜のO氏から「AAA」(Art of Aggressive Accounting、会計兵法)の一環として、「MQ会計」を英文にしたいと言われ、それなら『人事屋が書いた会計の本』(ソーテック社)が一番適切だろう、と言ったら、では早速自分が訳しますと言われて、数日をへずして、『会計の本』が英語になった。自分が書いた文章を英語で読むのは珍しい体験だ。一読すると、だいぶ私の英語力とO氏のそれとでは実力レベルが違うことが分かった。私のはワンパターンで初歩的だし、彼のは単語・言い回しとも私の知らないことが無数に出てくる。

そこで1ページから読みながら辞書を引いていくのだが、普通の英和辞典は分厚いし、また特殊な用語が頻繁に出てくるので経済用語辞典も引かなければならない。

ところが、出張しながらこの仕事をやるとなると、こんなに分厚い辞典や参考書をたくさん持って移動というわけにはいかない。しかも、読み手は外国人だから、いい加減な低レベルの、稚拙な表現は出来ない。

私のIBMs30には年末に富士通の翻訳ソフトを搭載したことは先にも書いたが、機械をずっと立ち上げたままで翻訳の仕事というのは気が重い。

そこで思いついたのが「これはひとつ電子辞書を買わなくてはいかんな」ということだった。

これまでは、正直、電子辞書なんて買うもんじゃないと思っていた。マイペディアのような電子百科事典などはあったらいいかなぁと思うものの、実際に入手することはなかった。

思いついたのが夜だったので、翌朝を待ちかねるようにして新橋のキムラヤへ出かけた。アキバでもいいのだが、かえってアキバでは店が多すぎて探すのが大変だ。キムラヤなら、本店が大きいし、こういう類の在庫も多い。(実はポケコンも、1980にここで買ったのです。)

新橋にて

  さて、実際に店に行ってみると、何十種と並んでおり、いったいどこのどれを買えば良いのか、初めてのことで分からない。とりあえず、これはという各社のカタログ数枚をかき集めて、近くに喫茶店を探す。「電子辞書には英文中心と日常知識中心の二種類ある」ということは以前どこかで見ていたから、その中の英文中心を買うことは決まっている。

ようやく適当そうなのを二三種選んで、再び店頭に引き返す。幸い説明員がそばに立っている。「英語のプロフェッショナル・ユースが欲しい」というと、「ではこれでしょう」と連れて行ってくれたのが、最近出たばかりのSII社のT6700の前。

実はこれにしようか、それとももう一つの方にするかとほとんど決めていたので、一瞬で先方の推薦機種に決定し、ほとんどテストもせずに3.5万円ぐらいで買ってきた。

使い心地

  使ってみると、なかなか具合がいい。これまで、電子辞書は高い--とそれしか考えていなかったが、今回のように旅行中にも英訳の仕事をやるとなると、今度は値段より軽さだ。サイズも大きめの電卓程度。押すと即立ち上がるところがなんとも新鮮である。

私は、まだPDAの類は使ったことがない。しかし、この即立ち上がるというのはまた格別なものだ。

相当な冊数の辞書が内蔵されているわけだが、私がよく使うのは、英和と和英のところ。特に和英が多い。ほかにも「英英」とか「類語」(シソーラス)とかいろいろあるので、時に応じて、あれこれさまようときもある。そういう時、「ジャンプ」という機能を使うと、各辞書を一つのキーワードで横断的に比べてみることも出来る。いわゆる「SH」ドンの世界だ。

会計は特殊

 なお、ついでに、浜松町の大書店に寄って、『英文会計用語辞典』(山田昭広著、中央経済社、3500円)も、少々高いが買ってきた。これも便利だ。会計用語は当然ながら特殊であって、翻訳ソフトでもその部分だけ業界用語ソフトを追加するところだが、その追加のかわりに、この辞典を買い増したのである。

さらに、ANJOから出ている『英文簿記入門』(安生浩太郎監修、実業の日本社、2500円)も手元にあるので、このくらいあれば、たとえば「借方/貸方」は何というのかでも、実際の今の使われ方が分かる。

たとえば、私が昭和45~50にかけて勉強したころは、借方/貸方はdebtor/creditor一本やりだったが、最近はdebit/creditが優勢らしい。経常利益はordinary profit、ウーン。当期利益はnet earnings(income)か。

まあ、英文会計でも表現に幾通りかあり、一用語に限られるわけでもなさそうなので、最終的には適当にせざるをえないが、、。

最近では、大學でも辞典を買わせず、電子辞書を買わせるところが多いと先ごろの新聞に出ていた。読んだときにはその意義が分からなかったが、まさかこんなに早く自分が買うことになろうとは、思いもよらなかった!

(KK西研究所・所長 西 順一郎)