結論
ズバリ、この本はお勧めである。
理由。この本は、単に「ソニー」の凋落について語った本ではない。ソニーが駄目になった理由を書いた本は巷に溢れている。一年前にも竹内慎司著『ソニー本社六階』アンドリュー・プレス、2005年4月という本があった。一ヶ月ほど前にこの本を本屋で見かけたとき、(あ、またか・・)と思った。しかしそれでもこれを買ったのは、著者がまだ若い、現場そのものの担当者だったからである。現場から見ると、昨今のソニーの凋落の原因と現象はどうなのかを見てみたいと思った。
ソニーがおかしくなったな、と気が付いたのはニ三年前だ。いつの間にか、ソニーを買うのでなく、キヤノンばかり買っている自分に気が付いた。八ミリはもっぱら松下の3CCDにやられていた。
キヤノンのデジカメは、IXY以来何台目になるだろうか? (古い例では、パラオに行った時、水戸の高田さんが持ってきたキヤノン・オートボーイの「色」に感銘して、帰るとすぐ、それまで使っていたミノルタを捨て、オートボーイに変更した。)
途中、評判に負けてC社のExilimも買ってみた。駄目。室内で撮った人物の色が緑がかっていた。F社も何度か買っているが、続かない。(今も、5200は良いと思っている。)
ここ数年、IXY30→パワーショットS60→パワーショットS2ISとキヤノンばかりが続いている。
写真用プリンターは、キヤノンの「PD」(プリントダイレクト、フォトダイレクト)シリーズをとっかえひっかえ使ってきた。現在は900PD。
一方、事務用のプリンターは、LBP-1110という小型マシンで、2001年5月、入院のときに取得したものだ。もう5年にもなるのに、故障もなく、品質も安定、デザインも飽きが来ない。大のお気に入りだ。印字も良い。
「ソニー精神」は、いまやキヤノンに
ソニーの井深イズムの青チップ経営、「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」はここ数年ソニーから消えてしまい、そのDNAはいまやキヤノンにあると言ってよい。私はソニーのカメラを買ったことがない。一応検討対象には入るのだが、結論はそこへは行かない。
なぜこの本がお勧めなのか
この本には、「誰がソニーを駄目にしたのか?」「駄目な会社とはどういう会社か?」「なぜそうなのか?」「どうなれば良いのか?」「どうすれば良いのか?」などが書かれている。ソニー主義とは井深主義であり、技術至上主義である。
Research makes the Difference.
Sony means Quality.
これしかない。
なぜソニーを買うのか? それはよそにないからだ。独自性のせいだ。独自性、独創性、先進性のためなら、多少のお金は問題ではない。ハイプライスも問題ではない。盛田さんは「ハイクオリティー、ハイプライス」と私に言った。
ソニーの中でも、安藤国威が率いたVaio軍団は、意外とソニーらしかったらしい。これは嬉しかった。
と言うのは、昭和44年(1969)私が人事開発室研修係長のときに受け入れた学卒新入社員文科系15人の中で最優秀が安藤だったからだ。入社当時、彼は、「いつまでいるか分かりませんよ」「文学をやめるつもりはありません」などと言って私をいらつかせたが、その実、私などよりはるかに長く、30年以上もいて、結局社長にまでなってしまった。
私はまだ当時は人事畑の人間で、モチベーションの専門家、それしか知らない典型的な I 型人間だった。したがって、この15人の訓練内容はソニーイズムの注入と、Y理論の訓練だけであった。
それがはるかに30年もたってから、彼がVaioグループを率いていくときに、ソニー主義・Y理論に基づく事業部運営をしているのだ。それがこの本の中から読み取れたのが嬉しかった。(技術研究会・研究発表会などがその一例。)
駄目にしたのは誰?
1.トップ
2.過度の数字主義
3.大企業病、官僚主義の蔓延
4.45歳以上55歳以下の堕落、ブレーキ、日和見主義
5.35歳以下の不完全燃焼MG歴30年、その間、昭和60年前後のHIDE四社・HISA四社など数々の会社の「企業革命」に携わってきたが、その直前、昭和58年ごろのTF社の事例を思い出す。同社の企業革新にもっとも熱心だったのは、トップのN氏をのぞけば、35歳以下の係長クラスが中心だった。45歳以上55歳以下の部課長クラスは、熱心どころか逆に邪魔をする存在だった。
それとまったく同じことがこの本にも書かれている。つまり、同様なことはS社に限らず、どこにでも起こるのであり、注意すべき点だと思うのである。反面教師の本として、一読を勧めたい。
(KK西研究所・所長 西 順一郎)