地図の本
三月一日、近くの本屋に行くと、『地図を楽しむ』という本が書棚にある。思わず手にとってぱらぱらとめくると、なかなか趣味に合う内容だ。ほとんど衝動買いをして、我が家に帰る。とても楽しい。
これまでに買った地図の本というと、代表的なのはウィルフォードという科学ジャーナリストが書いた『地図を作った人びと』(The Mapmakers、河出書房新社、2001年改訂版)。これは600ページを超す超大作なので、旅行にはまず持っていけない。もっぱらトイレの常備本にして、少しずつ読んでいる。
なかでも面白い箇所は「ジオイド」(海が地球の引力と回転による遠心力に自由に反応すれば一致すると考えられる面)のところだ(p.480)。話が難しいので、何度も繰り返し読んでいる。「地球の形は西洋梨」というあの話だ。
よく「孤島に持って行きたい一冊の本」などと言われるが、私はこの本を持って行きたい。
幼少の頃からとくに地理に興味があったわけではない。高校三年に上がるときに、佐世保から都内の西高に転入したら、「世界史をやりたい」「いや、それはもう皆済んでいる。人文地理しかない」「じゃしょうがない、それで」というわけで、偶然選択させられた。
ところがこの地理がめっぽう面白い。大学でも地理研究会に入り、進学も本当は地理学科を選びたかったのだが、就職の関係で、社会学に進学してしまった。
さらに2冊
さて、今回手に入れた『地図を楽しむ (なるほど事典)』という今尾恵介の本が大変面白い。それで、アマゾンで「今尾恵介」ドンして、さらに2冊を買い入れた。
アマゾンには、正価の新本のほか、マーケットプレイスという中古本市場がある。これまでも何回か利用しているが、なかなかちゃんとした本を送ってくる。
区民講座
ところで、こんなに話題が面白い今尾さんだが、ひょっとするとこの人は、昨年八月に品川区で行なった区民大学教養講座「地図でめぐる・地図を語る」(全6回)の講師陣の中に入っていたのではないのか?
そう思ったので、当時のファイルを引っ張り出してみると、なるほど間違いなくお名前が、、。しかもご丁寧に第二回・第四回の2コマを担当している。あのとき私は、話はどの先生のも面白いと思って楽しく聴講したものの、先生の名前までは、一人として覚えようとはしなかった。
③の本には、写真まで付いているのだが、それを見てもうろ覚えである。運の悪いことに、全6回中肝心の第四回(8/15)は、あいにくお盆の帰省日に当たり、出たいけど出られなかった。
ちなみに、品川区のこのときの催しは大ヒットであった。100人の募集に130人もの応募があった。私はラッキーにもくじ引きに当たったというわけだ。夕方1845開始の毎回2時間。会場は受講者で溢れていて、ちょっと遅れて行くと、座る席を探すのに一苦労した。
今尾さん
この先生は、昭和34年(1959)横浜の生まれで、いま48歳、まだ若い。明治大学独文中退で一時『パイパーズ』という管楽器の専門誌の編集者をやっていたそうだが、中学以来の5万、2.5万の地図好き、地形図好きが高じてフリーとなり、そっちのほうのエッセイストとなった。
道理で、ヨーロッパ各国の地名の読み方が的確で、危なげがないわけだ。ミュンヘン通りは、現地語では「ミュンヒナー・シュトラーセ」と言うんだなんてことが、さりげなく書いてある。
実に幅広く、いろんな薀蓄が散りばめてあるので、読んでいるだけでもためになる。たとえばじっくりと読ませたのは、ご自宅のある日野市新井近くの「川崎街道」の旧道探索である。日野の甲州街道から旧道に入り、延々と自転車で高幡不動を過ぎて、関戸(現・聖蹟桜ヶ丘)まで。文字どおり紆余曲折、旧道を捜し歩く。
私はもちろんここを訪ねたことはないが、昭和40年代に川下の調布に10年住んだことがあり、日野に知り合いもあるので、雰囲気はよく分かる。「家に帰って顔を洗ったらタオルが黒くなった。こんなところも津和野とは違う。」(①、p.181)と、末尾の締めもニクイ!
彼は『地球の歩き方』などのフリーハンド地図製作も担当したというだけあって、他人に見せる地図の描きかたもきれいだ。この真似はとてもできない。
またいつか、この先生のレクチャーを受けたいものと思っている。
(KK西研究所・所長 西 順一郎)
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