ルパンを読ませたい
もう長いことルパンの『813の秘密』を孫娘(小学4年)に読ませたいと考えていた。近くの大書店に行っては物色したこともあったが、去る10/13、彼女の誕生日にちょうどいいかと一冊買って来て進呈した。たいへん喜ばれた。私が『813の秘密』を読んだのは中学生ぐらいのときだったろうか? はっきりした覚えはない。なぜ今、孫娘にこの本を進呈しようと思ったかというと、もう二三年前になるが、最近の児童図書に『かいけつゾロリ』(ポプラ社)というのがあって、もちろんギャングものであるが、ある意味、明元素なギャングもので、他愛のないものである。この命名は言うまでもなく「怪傑ゾロ」をもじったものだ。
孫娘は、そのころこのマンガが好きで、しょっちゅう繰り返し読んでいた。
(私は無論読まなかった。)
ああいう怪傑(快傑)もの、怪盗ものが好きなのなら、軽いマンガでなく、名作の中から子供向けの「813」などを読ませるといいだろう。
本屋へ行くと、同じ本で二三種類あったが、とりあえず(ルブラン・作)南洋一郎・文の『813の謎』(ポプラ社、2005年)が一冊にまとまっていて、字も大きく、本自体も大判で手ごろだったのでそれに決めた。
南洋一郎の思い出
我々のように戦中~戦後に育ったいわば『少年倶楽部』世代には、南洋一郎の冒険小説や小松崎茂のペン画などは忘れられないだろう。私は小学四~五年のころ、村に本屋がなかったので、親にせびって小銭をもらうと、隣村の神保書店まで3キロの道を歩いて、少年倶楽部などを買いにいった。ずっと峠道を読みながら歩いて帰ったものだ。特に南洋一郎(1893-1980)は、『吼える密林』とか、アメンホテップとか、ライオンと大蛇の闘いとか、ドキドキしながら興奮して読んだものだ。
田舎では、こんなことで語り合う友達もいなかったので、彼の名前が「南洋・一郎」なのか「南・洋一郎」なのかさえ、よく分からなかった。
813を読む
さてこの『813』、久しぶりに私自身も読み返したいと思ったので、彼女に渡すときに、「学校に持って行っても、絶対に友達に貸してはいけない」と厳しく注意しておいた。正月休みに、スキー宿で読むのにちょうど良いと思って、彼女に持ってきてもらったところ、「中○美○」と自分の名前を丁寧に書いてあるのを見て感心した。『813』を読み上げ、解説を読んだら、「813の謎は、奇巌城と並ぶ怪盗ルパンの長編の傑作です」と書いてある。私は、813はよく知っているが、奇巌城は知らない。
ネットで調べてみると、原作者モーリス・ルブラン(1864-1941)は、なんでも『怪盗紳士』が書きはじめで、それもいやいやながら強制されて書き始めたのだという。怪盗紳士の第一回目が新聞に連載されると大いに受けたので、新聞社としても第二作、第三作と続けるように要求し、その初期の六作を一冊にまとめたのが怪盗紳士だという。
ルパン全集20巻とか30巻とかある中で、『奇巌城』は取って見るとして、その書き始めの短編集『怪盗紳士』も読まなければと思って、この二冊を追加発注した。
孫娘は、思わぬプレゼントに、ニッと笑った。
怪盗紳士を読む
奇巌城を彼女にまず渡し、私は、読みやすさの点から『怪盗紳士』を読み始めた。非常に面白い。一生懸命読んで、数日で読み上げた。そろそろ交換して、『奇巌城』にチャレンジしようと思っている。マンガ『かいけつゾロリ』が好きだった彼女が、小4になって、いよいよこういう名作が好きになってくれることを楽しみにしている。
(KK西研究所・所長 西 順一郎)